肺がんについて

肺がんの症状

肺がんの症状はその発生部位により、また、大きさや進行の程度、他の臓器へ転移しているかどうかなどにより異なります。症状が全くない場合もあれば、転移した臓器の症状のみが現れる場合もあります。症状だけでは、肺がんとその他の呼吸器系の疾患(肺炎など)と区別することは大変難しいため、肺がんが疑われる場合には、積極的に画像検査(胸部レントゲンやCT)、病理検査(細胞診や生検)を行うことが勧められます。

一般的な症状としては、

  1. 呼吸器疾患としての症状
    1. 咳(痰をともなわない咳、痰を伴う咳)
    2. 痰(さまざまな色の痰、血痰)
    3. 喀血(肺がんから血がにじんで、咳とともに血がでてくる状態)
    4. 息苦しさ
    5. 喘鳴(息をするときにぜいぜいなど音がする状態)
  2. 全身症状
    1. 体重減少・やせ
    2. だるさ・倦怠感
    3. 食欲不振
    4. 発熱(腫瘍熱、合併症としての肺炎などの感染症)
    5. 意識障害(脳転移や電解質バランスの乱れなどによる)
  3. 転移部位による症状(肺がんはリンパ節、骨、脳などに転移することがあります)
    1. 頚部の腫れ・リンパ節腫脹(リンパ節転移による)
    2. 声枯れ・嗄声(反回神経麻痺などによる)
    3. 痛み(胸部痛、転移部位の骨痛など)
    4. 顔や腕の腫れ(上大静脈の圧迫による)
    5. 手足の脱力・麻痺、頭痛、てんかん発作(脳梗塞に似た症状=脳・脊髄転移や骨転移の脊髄圧迫などによる)
    6. 食事の飲み込み困難・嚥下障害(食道周囲リンパ節転移による食道圧迫、脳転移などによる)
    7. 骨折(骨転移による)

横浜市立市民病院でのデータ(日本内科学会雑誌1997)によると、245例の新入院肺がん患者さんでの初診時の症状は、

  1. 咳    38%
  2. 痰    24%
  3. 血痰   14%
  4. 呼吸困難 14%
  5. 胸背部痛 13%
  6. 体重減少 7%
  7. 倦怠感  5%
  8. 発熱   5%

と報告されており、また約25%の患者さんは無症状でした。

症状がないことも少なくないため、定期的な健診を受けることが勧められます。症状は、単独のことも、複数組み合わさっていることもあります。気になる症状がある方は、かかりつけ医に相談し、レントゲンやCT検査などを行うことを検討してください。

肺がんの診断

(1) 画像による診断

肺から発生したがんを肺がんと呼びますが、その進行により他の臓器に転移することが少なくありません。レントゲンやCTなどの検査によって、がんの存在する部位や拡がりを確認することが、その後の検査や治療方針を決定する上で非常に重要です。

  1. 胸部レントゲン…もっとも基本となる画像検査であり、検診でたまたま胸部レントゲンを撮影したところ肺がんが見つかることもあります。ただし心臓、横隔膜や肋骨などに隠れて、肺がんを見つけることができないことがあります。
  2. 胸部CT…肺がんが肺の中でどの場所にあるのか、どれくらい拡がっているかを確認する重要な検査です。まず、肺がんが末梢(=胸の壁の近く)にあるのか、または中枢(=気管の近く)にあるかなどの場所がわかります。次に、胸の壁や気管、心臓などの周りの臓器に浸潤(周りの臓器を壊しながら入り込むこと)していないかどうか、また胸の中のリンパ節に転移があるかどうかについても調べることができます。また、高分解能CTで精密なCT画像を撮影することによって、肺がんの性質について、ある程度推測することも可能です。
  3. 腹部・頭部CT…おなかの中の肝臓などの内臓、リンパ節、脳などに転移がないかどうか調べることができます。肝臓等や脳に転移がみつかった場合には治療法が変わる場合があります。
  4. 頭部・胸部MRI…脳CTよりもMRIの方が小さな転移を発見できると考えられています。施設によっては脳CTではなく、最初から脳MRIを行うこともあります。胸部MRIは、肺がんが肺や胸の壁、心臓、血管などへ浸潤していないかどうかを詳しく調べることができます。手術が可能かどうかなどを判断する場合などに撮影されることがあります。
  5. 骨シンチグラム…肺がんは骨転移を起こす代表的ながんのひとつであり、がんの拡がりを検討します。骨に転移がみつかった場合、治療方針が変わる場合があります。
  6. PET/CT…他の画像診断で分かりにくい部位の評価に威力を発揮することがありますが、現時点では必須の検査ではありません。遠隔転移の有無や腫れているリンパ節が転移なのかどうかの判断に使用する場合があります。

(2) 病理診断

がんの診断には、原則として腫瘍の一部を採取して、顕微鏡でがん細胞を確認する病理学的な診断が必須です。例外的に、腫瘍の存在する場所などにより採取が難しく、症状、画像検査などで肺がんが強く疑われ、また病状の進行が急速な場合には組織診断が未確定のまま治療を行うこともあります。さらに後述するように遺伝子検査のために組織検査を繰り返し行う場合もあります。

組織採取の方法
  • 気管支鏡検査…胃カメラより細いファイバーを口から、気管・気管支に挿入し異常が認められる部位から組織を採取します。出血や気胸(肺に小さい穴があき、タイヤのパンクのように肺がしぼんでしまう状態)、麻酔薬のアレルギー、肺炎などの合併症が起こることがあります。
  • CT肺針生検…CTを撮影し、異常がある部位の位置を細かく確認しながら、胸や背中の表面から針を刺して組織を採取します。やはり出血や気胸などの合併症があります。また、まれですが刺した針から血管内に空気が流れ込み、泡が脳の血管を詰まらせてしまうことが報告されています。
  • 胸腔鏡下生検、開胸生検…手術によって、組織を採取する方法です。その他、胸水(=胸にたまった水)や表面から触ることのできるリンパ節を針で刺して組織を採取することもあります。
組織型(がん細胞の形状などに基づく分類)

肺には様々なタイプの肺がんが発生しますが、小細胞肺がんと非小細胞肺がん(その他のがんの総称)とでは治療方針が大きく異なるため、これらを区別することは非常に重要です。

  • 小細胞肺がん…肺がんの約15%を占めるタイプで喫煙との相関が強いと言われており、早期にリンパ節や他の臓器などに転移するなど進行が早いことが特徴の一つです。
  • 非小細胞肺がん
    腺がん…肺がんの約70%を占めるタイプで近年増加傾向です。肺の末梢にできることが多く、非喫煙者にできる肺がんの多くはこのタイプです。
  • 扁平上皮がん…肺がんの約15%を占めるタイプです。肺の中枢にできることが多く、喫煙との相関が強いと言われています。
  • その他…頻度は低いですが、大細胞がん、多形がん、腺嚢胞がん、明細胞癌などがあります。

(3) 腫瘍マーカー

採血検査で肺がんが分泌する特定のタンパクを定量することができ、この分泌量が肺がんの勢いと関係があることがわかっています。このタンパクを腫瘍マーカーとよび、肺がんが増大している状態なのか、縮小している状態なのかの参考にすることがあります。ただし、それほど鋭敏な検査ではなく、また必ず高値であるわけではないので、肺がんの早期発見、早期診断に用いることはできません。そのため、腫瘍マーカーが少し高値であっても、がんでないことは珍しくありませんし、逆に正常値であっても肺がんの存在を否定することはできません。また、肺がんの診断や治療効果の判定には、上記の画像検査、病理診断が必要です。腫瘍マーカーの数値は、補助的に用いられます。

  • CEA、SLX…腺がんのマーカー
  • SCC、CYFRA…扁平上皮がんのマーカー
  • NSE、ProGRP…小細胞がんのマーカー

(4) がんの遺伝子診断

通常の細胞は、遺伝子という設計図を頼りに増えたり、休んだり、また歳をとったら新しい細胞に置き換わるなど、規則正しい振る舞いをしています。この設計図が休むべき時に休まず、歳をとらずに、居座ってどんどん増えるように書き換えられてしまうことが、がん細胞に変化する原因の1つだと考えられています。がん細胞はどんどん増えるのに都合が良いように、複雑に設計図が書き換えられていると考えられており、薬でその増殖を抑えることは簡単ではありません。しかし、最近の研究で、自動車でいうと操作を担っている運転手のような働きをしている遺伝子の変異(ドライバー遺伝子変異と呼ばれる)がいくつか見つかっています。そこでどのドライバー遺伝子変異があるかを調べることで、肺がんを遺伝子レベルで区別することができるようになってきています。さらに非常に喜ばしいことですが、その重要なドライバー遺伝子が作り出す分子を抑える薬剤も多く開発されています。このような特定の分子を抑える薬剤を分子標的薬と呼びます。

現在のところ肺がんにおける代表的なドライバー遺伝子変異として、上皮成長因子受容体(EGFR)および未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)の2つがあり、これら遺伝子異常の有無を採取した組織を用いて検査することが保険で認められています。また2013年9月現在、EGFRに対する阻害薬が2種類(ゲフィチニブとエルロチニブ)、ALKに対する阻害薬が1種類(クリゾチニブ)認可されています。これらの遺伝子変異をもつ肺がんに対して、適切な分子標的薬を使用することで、非常に高い治療効果が期待できます。このドライバー遺伝子変異を調べることは、治療方針に大きく影響するためには、非常に大切な検査です。この遺伝子変異検査には、しっかりとしたがん組織が必要であるため、組織を取り直す必要がある場合もあります。

非小細胞肺がん

がんの拡がりで、0、I、II、III、IV期に分類します。腫瘍そのものの大きさや周囲の臓器への直接浸潤の程度、リンパ節への転移、遠隔臓器への転移の有無などによって大まかに下記のように分類されます。

IA期…がんが原発巣にとどまっており、大きさは3cm以下で、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です。

IB期…がんが原発巣にとどまっており、大きさは3cmを超え5cm以下で、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です。

IIA期…原発巣の大きさは5cm以下で、原発巣と同じ側の肺門のリンパ節にがんの転移を認めますが、他の臓器には転移を認めない段階です。

IIB期…原発巣の大きさは5cmを超え、原発巣と同じ側の肺門のリンパ節にがんの転移を認めますが、他の臓器には転移はみられない段階です。または、原発巣のがんが肺をおおっている胸の膜に直接およんでいますが、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です。

IIIA期…原発巣が直接周囲の心臓や気管、食道、大きな血管に浸潤しているか、または縦隔と呼ばれる心臓や食道のある部分のリンパ節に転移が認められるものの、他の臓器には転移を認めない段階です。

IIIB期…肺門や縦隔へのリンパ節転移と共に原発巣が直接周囲臓器に拡がっている場合、原発巣と同じ側の肺に転移が認められたり、原発巣と反対側の縦隔もしくは鎖骨のリンパ節に転移しているものの、他の臓器に転移を認めない段階です。

IV期…胸の膜に転移し胸水がたまっていたり(がん性胸水といいます)、心臓の膜へ転移し心嚢水(がん性心膜炎といいます)がたまっていたり、原発巣の他に、反対側の肺、脳、肝臓、骨、副腎などの遠隔臓器に転移がある場合です。

小細胞肺がん

小細胞肺がんでもI、II、III、IV期という病期は肺がんの状態を把握するために大切ですが、治療方法を考える際に、限局型、進展型というもう1つ別の分類方法を用います。

限局型…がんが片側の肺と近くのリンパ節(縦隔のリンパ節、がんのある肺と同側の鎖骨上リンパ節も含む)にみられる場合です。

進展型…がんが肺の外に拡がり、がんの転移が身体の他の臓器にも見つかる場合、すなわち転移のある場合です。

非小細胞肺がんの治療

肺がんの治療方針は、心臓・肺・肝臓・腎臓の機能など患者さんの状態、肺がんのタイプ(組織型、ドライバー遺伝子変異の有無)および肺がんがどの程度進行しているかなどを総合的に考え合わせて判断します。肺がんの治療法として、主に手術、放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)の3種類があり、これらを単独もしくは組み合わせて行います。

1)外科療法

直接的にがん細胞を切って取り除く外科切除は、比較的早い病期の患者さん(T〜IIIA期)には、最も有効な治療法です。標準的な手術方法は、肺葉切除およびリンパ節の切除(リンパ節郭清と呼ばれます)を行います。肺機能の悪い患者さんには、切除する範囲を小さくした縮小手術を行う場合もあります。 また、肺機能が悪い場合や心臓の病気があるなどで患者さんの状態が悪い場合は、病期としては切除可能でも、手術が困難と判断される場合もあります。その場合は、状況に応じて、その他の治療方法が検討されます。

2)放射線療法

X線や他の高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を壊す治療です。身体の外側から病気のある肺やリンパ節に放射線を照射します。放射線を当てた部位のがん細胞のみに有効です。根治を目指す胸部照射は、遠隔転移がないI期からIIIB期が対象となります。一般的に1日1回1.8〜2Gyを週5回照射し、計60〜70Gyを目標に照射を行います。III期では、全身状態や呼吸機能、照射範囲など条件が適合すれば、相乗効果を期待し、抗がん剤投与と同時に胸部放射線照射を行います。

根治を目指す放射線照射以外に、症状を緩和する目的でも放射線治療はよく行われます。例えば骨折を予防する目的で、脊椎や四肢の骨の転移に照射したり、脳転移による神経症状を予防、治療する目的で頭部に放射線照射を行ったりすることがあります。

3)化学療法(細胞障害性抗がん剤/分子標的薬)

化学療法とは抗がん剤により、がん細胞を抑える治療法です。注射または内服によって投与された抗がん剤は、血流に乗って全身に運ばれるため、部分的ではなく全身をカバーした効果が期待されます。しかし、抗がん剤の効果は一般的にそれほど高くないため、抗がん剤のみでがんを完全に抑えることは大変困難です。そのためよりよい治療方法の開発を目指して、数多くの臨床試験が行われています。

非小細胞がんに対して用いられる主な細胞障害性抗がん剤は、プラチナ系薬剤であるシスプラチン、カルボプラチンおよび第3世代細胞障害性薬剤であるパクリタキセル、ドセタキセル、ペメトレキシド、ゲムシタビン、ビノレルビン、ティーエスワン、イリノテカンなどです。臨床試験の結果、シスプラチンまたはカルボプラチンのどちらかと、それ以外の抗がん剤のうち1種類を選択した2剤併用療法で治療を行うことがより効果的であるとわかっていますが、患者さんの状態や治療歴に応じて、単剤で治療を行う場合もあります。個々の患者さんに対して、どの薬剤、組み合わせが最善なのかを事前に予測することは現時点で困難であるため、患者さんの状態、薬剤の副作用などを考え合わせて、薬剤を適宜選択しているのが現状です。

この細胞障害性抗がん剤による化学療法には、おおまかに3つの役割があります。1つは、手術後の治療成績を向上させるために画像検査では指摘できない微小ながん細胞の生き残りを叩く目的で行う術後補助化学療法術後化学療法です。もう1つは、外科切除は困難であるものの、遠隔転移を認めない局所進行型の肺がんに対する治療において、放射線と化学療法を併用して行う化学放射線療法です。直接的に細胞を叩く効果以外に、放射線の効果を高める増感剤としての効果も期待されています。3番目には、遠隔転移があるなどの理由で、外科切除、放射線療法による根治治療が行えない場合での化学療法です。治療の目標は、がん細胞の勢いを止め、小さくすることで病気と上手に付き合っていくことになります。

分子標的治療として、上述のドライバー遺伝子変異に対する分子標的薬以外に、血管新生阻害薬のベバシズマブという薬剤があります。この薬は血管上皮成長因子(VEGF)の働きを抑えることで、がん細胞の成長に必要な血管を阻害する効果や、抗がん剤と併用することで、抗がん剤が腫瘍内部へ運ばれるのを助ける効果があると考えられています。扁平上皮癌以外の非小細胞肺がんに適応があります。

病期別の治療

治療は主に病期により決定されますが、年齢、心臓・肺機能などを含めた全身状態、組織型、ドライバー遺伝子変異の有無によって治療が異なる場合があります。

0期

次の治療のいずれかが選択されます。

  • 外科療法
  • レーザー治療

IA期 IB期 IIA期 IIB期

次の治療のいずれかが選択されます。

  • 外科療法
  • 放射線療法(外科手術が適切でない場合)
  • 外科療法+術後補助化学療法

IIIA期

次の治療のいずれかが選択されます。

  • 外科療法+術後補助化学療法
  • 放射線療法と化学療法の併用療法(手術が適切でない場合の標準治療)
  • 放射線単独療法(外科手術や化学療法が適切でない場合)
  • 外科療法化学療法後(放射線療法を組み合わせる場合もある)外科療法

IIIA期には非常にさまざまな病気の広がりのパターンがあり、画一的な治療では対応できません。それぞれの状況に応じて、治療方針を検討、決定していく必要があります。手術によって完全にがん病巣をとり除くことができると判断され、体力的にも手術に耐えうると判断された場合には外科手術が選択されます。その際、再発・転移の防止のために手術後に放射線療法や化学療法が併用されることもあります。また、腫瘍を小さくすることで外科切除の範囲を小さくする目的で、術前に放射線療法や化学療法を行うことがあります。

一方、外科的に完全にがん病巣をとり除くことが不可能あるいは体力的に手術に耐えられないと判断された場合には、放射線療法と化学療法の併用が選択されます。放射線療法に化学療法を組み合わせることで、放射線療法単独よりも治癒率も向上し、再発のリスクを下げ、生存期間を延長できることがいくつかの臨床試験で証明されています。放射線療法と化学療法を同時行うと、副作用が強くなる場合があるので、体力が十分でない場合は順番に行ったり(化学療法の終了後に胸部放射線を別に行う)、放射線療法単独で治療したりすることもあります。

IIIB期

次の治療のいずれかが選択されます。

  • 化学療法+放射線療法
  • 放射線療法
  • 化学療法

IIIB期の非小細胞がんで、放射線照射が可能な場合は化学療法+放射線療法が選択されます。放射線療法と化学療法を同時行うと、副作用が強くなる場合があり、体力が十分でない場合は順番に行ったり、放射線療法単独で治療したりします。

IV期および再発

次の治療のいずれかが選択されます。

  • 抗がん剤による化学療法
  • 症状を緩和する目的での放射線療法
  • 呼吸困難を伴う胸水に対する処置
  • さまざまな苦痛症状を和らげることを目的とした緩和療法

播種病変(がん細胞が胸やお腹のなかに散らばった状態)や遠隔転移をみとめるIV期は、手術療法や放射線療法など根治を目指した治療のよい適応とはなりません。IV期ではがんによる症状を認めることが多く、痛みや呼吸困難などの症状を緩和することが重要になってきます。治療の目標は、症状を和らげて病気と上手につきあっていくことです。医療用麻薬を含む鎮痛薬や酸素投与も症状に応じて使用されます。状況に合わせて、抗がん剤による全身治療を行ったり、痛みの強い病変があれば、痛みを和らげることを期待して放射線を当てたりします。これらの治療により一時的にがんが小さくなることは期待できますが、完全に治すことは大変難しいと考えられています。また、抗がん剤や放射線治療には副作用があるため、全身状態が悪く体力が著しく低下している場合には治療を行うことが、逆効果であることもあります。このため、どのように対処するかは十分に検討する必要があります。

化学療法後に再増悪した場合

化学療法後または治療途中にがん細胞が大きくなってきた場合、全身状態が悪くなければ次の治療を検討します。通常ペメトレキシド、ドセタキセルなどの細胞障害性抗がん剤やエルロチニブも選択肢となります。

現在標準的に行われている化学療法の効果は、多くの場合十分満足できるものではありません。そのため、施設によっては新規に開発された薬剤を治験という形で使用できることがあります。安全性や効果が十分確立されていないことや、条件によっては必ずしも参加できるとは限らないなど、多くの制約があります。しかし、治療選択肢を広げるという意味では常に検討する余地があります。

小細胞肺がんの治療

小細胞肺がんは肺がん全体の約15%を占め、喫煙との関連が指摘されています。非小細胞肺がんと比べると進行が早く、多くの場合は肺以外のリンパ節や臓器に転移して診断されます。早期に転移をきたす反面、化学療法や放射線の効果は非小細胞肺がんより高いとされています。非小細胞肺がんと同じ病期分類の他に、より簡便な限局型と進展型に分類して治療方針を検討します。遠隔転移、播種病変があるかどうかで限局型か進展型が決まります。限局型の場合、根治を目指した治療方針となります。限局型のうちT期は可能であれば外科的に切除され、術後に化学療法が追加されます。その他の限局型は、化学療法と放射線治療の同時または逐次併用療法で根治を目指します。進展型では原則として化学療法が主体であり、症状に応じて緩和のために放射線療法を併用することになります。基本的に、根治することは難しく緩和のための治療となります。

化学療法でよく使用される薬剤には、細胞障害性抗がん剤のカルボプラチン、シスプラチン、エトポシド、イリノテカン、ノギテカン、アムルビシンなどがあります。シスプラチンともう1つ薬剤を併用する2剤併用療法が標準的な組み合わせです。 限局型に対して同時放射線療法を併用する場合は、安全性の観点からシスプラチンとエトポシドの併用療法が使用されます。進展型の場合、シスプラチンとイリノテカンまたはシスプラチンとエトポシドの併用療法の安全性、効果が比較検証され、日本においてはイリノテカンとの併用療法が優れていることがわかり、よく使用されています。心機能、腎機能や全身状態に合わせて、カルボプラチンとエトポシド併用療法もよく使用されます。

化学療法後に肺がん再度大きくなる場合や、治療途中にがん細胞が増大した場合、状況に応じてノギテカンまたはアムルビシン単剤療法による治療を検討します。

肺がんの緩和療法/支持療法

肺がんの治療として、手術療法、放射線治療、抗がん剤治療がありますが、肺がんに関するつらい症状を和らげたり(緩和療法)、病気や治療によって体力が落ちないようにすること(支持療法)を目標にした治療も同じぐらい非常に大切です。

緩和療法
肺がんによるつらい気持ちや症状(痛み、息苦しさ、だるさ、食欲低下など)を軽減することを目的とした治療。
支持療法
抗がん剤や放射線治療による副作用を軽減し、治療を苦痛なく受けるようにする補助的な治療。

このような治療は、終末期にのみ行われるのではなく、診断されたその日から始まり、抗がん剤など肺がんを抑える積極的な治療と並行しても行われます。つまり、肺がん治療のすべての場面において行われる非常に重要な治療といえます。

骨転移と脳転移は、生活の質に大きな影響を与えることがあるため、それらの転移に対する緩和治療について述べます。

(1) 骨転移による症状

肺がんは乳がん、前立がんと並んで骨転移が高頻度でみられるがん腫です。骨転移が進行すると病的な骨折(背骨、腰骨や手足の骨が、通常では折れることがない負荷、衝撃で折れたり潰れたりする状態)、骨破壊に伴う骨の痛み、、骨折した骨が脊髄など神経を圧迫することで起きる下肢麻痺・排便排尿障害などの神経障害など様々な症状により生活の質が損なわれてしまうことがあります。

骨転移による症状は様々なものがあり、それらを総じて骨関連事象(SRE: skeletal related events)といいます。

骨転移に対する治療
  • 放射線療法:局所の放射線治療により痛みの緩和、病的骨折を予防、脊髄圧迫を予防する効果があります。
  • 骨修飾薬:ゾレドロン酸やデノスマブといった薬剤はSREを予防することが証明されており、抗がん剤と併用して使用することもできます。
  • 鎮痛薬: 放射線治療には痛みを取り除く効果がありますが、医療用の麻薬を含む様々な鎮痛薬を組み合わせて痛みがないようにコントロールしていきます。
  • ストロンチウム(89Sr):放射線同位元素を注射することで、上記治療でも取り除くことが難しい痛みを軽減させる効果があるとされています。外来で治療を受けることができます。

(2) 脳転移

進行した肺がんで、脳転移が見つかることは珍しくありません。脳が障害されると、脳梗塞のような手足が動かしにくい、しゃべりにくいなど様々な神経症状により生活の質が低下してしまいます。

脳転移に対する治療
  • 放射線療法:局所の放射線治療によりがん細胞を抑え、それ以上脳を傷つけないようにします。
  • 脳の浮腫(むくみ)をとる薬剤:脳転移や放射線治療の副作用により脳は浮腫を起こします。脳は頭蓋骨によって覆われており、逃げ場がないため、浮腫による圧迫によりさらに傷ついてしまいかねません。そこで、脳の浮腫を軽くする作用のある薬を服用または点滴して治療します。

執筆者

Ver1.0 横浜市立市民病院 呼吸器内科
 東陽一郎、辻村周子、藤井知紀、檜田直也、猶木克彦、岡本浩明

Ver2.0 四国がんセンター呼吸器内科
大橋圭明、原田大二郎、上月稔幸、野上尚之



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